高野宏康(グローカル戦略推進センター地域経済研究部学術研究院)
平成25(2013)年に私が小樽商科大学へ着任して4年あまり、ちょうどその年から商大が地域貢献する大学を目指して取り組みはじめた、文部科学省の地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)の一環として、小樽の歴史文化を活かした様々な地域活性化プロジェクトに携わってきました。その間、いつも感じていたのは、何といっても小樽の歴史文化の奥深い魅力と可能性です。
小樽は、運河やガラス、オルゴール、美味しい海鮮丼や寿司が楽しめるロマンチックな観光都市であることは広く知られるようになり、近年ではアジア圏を中心に外国人観光客が大勢押し寄せています。しかし、運河と堺町通り商店街に立ち寄って、すぐ小樽を去っていく観光客が非常に多く、滞在時間の延長が小樽観光の課題となっています。
また、運河やガラス等が小樽の代名詞として全国的、世界的に認知されるようになったのは良いことなのですが、固定的で表面的な小樽イメージが定着してしまったこともあり、新たな観光資源の発掘、観光ルートの開拓が課題となってきています。
北海道でも有数の奥深い歴史を持つ小樽では、創作型のご当地グルメなどに頼るより、身近な地域資源の発掘が地域活性化に大きな効果を発揮します。戦後間もない頃から小樽の人たちの生活食として親しまれてきた、あんかけ焼そばの魅力を再発見し、地域活性化につなげる取り組みは、近年、観光客、市民ともにあらためて注目されています。
食べ物をはじめ、小樽の歴史文化は、より深く小樽のまちの魅力の本質を満喫することができる重要な観光資源といえます。なかでも、歴史的建造物はすでに小樽を代表する観光資源としてよく知られていますが、調べれば調べるほど、その魅力と可能性はまだ充分活用されていないことがわかってきました。
小樽には、まちの至るところに多くの歴史的建造物がのこっており、魅力的な景観をかたちづくっています。それらは飲食店や店舗などに活用され、観光資源として親しまれていますが、小樽では、昭和40年代から50年代にかけて運河保存論争が起こった時に、運河とともに倉庫をはじめとする歴史的建造物の魅力が再発見され、市民たちによって活用が進められていったことで、小樽は歴史的建造物活用の先進地となりました。
しかし、歴史的建造物に関心を持った観光客や市民が、その建物について知りたいと思っても情報を得ることは容易ではありません。小樽市指定歴史的建造物には、必ずブルーの説明プレートが設置されていますが、その説明や紹介の文章は建築様式などが中心となっていて、建物にまつわるエピソードや、小樽の歴史における位置づけなど、知りたい情報はほとんど記載されていません。歴史的建造物を紹介する書籍やWEBサイトも同様で、小樽の歴史的建造物についての、より深く、より本質的な情報の発信は今後の課題となっていると言えます。
私が所属する、小樽商科大学グローカル戦略推進センター研究支援部門地域経済研究部では、さまざまな歴史文化の調査研究と観光資源化のプロジェクトを進めていますが、小樽の歴史的建造物については、これまで指摘してきたような課題に応えるため、特徴的な研究方法と取り組みを行っています。
まず、文献や新聞記事を調べて、これまでにわかっている情報をできる限り把握します。そして、建物の関係者に入念な取材を行い、ヒアリングをしつつ、写真や記録などの資料がのこっているかを確認します。そして、私の専門分野である歴史学や民俗学、人類学の手法によって、その建物にまつわる「物語」(ストーリー)や、小樽の歴史における位置づけを検討し、その意義、特徴などを抽出します。
建物の写真を撮影する際には、小樽商科大学写真部を中心とする学生たちと連携し、その建物を特徴づける外観、内観の写真を多数撮影します。解説の文章は、地域経済研究部が担当し、調査で収集した情報をもとに1000文字程度にまとめます。そして、A4見開き2ページの記事として、小樽のフリーペーパー『小樽チャンネルMagazine』(発行:株式会社K2)誌上で毎月連載しています。
これまで紹介されていない情報を必ず盛り込むこと、カラー写真を多数掲載することなどが特徴となっており、平成29年3月には1年分(12回)の連載をまとめた小冊子『小樽の歴史的建造物ものがたり』を発行しました。すでに小樽の歴史的建造物に関心を持っている人だけでなく、観光客、市民、そして学生など若い人をもターゲットとするため、これらの取り組みを「小樽れっけん」プロジェクトと呼んでいます。
次々と歴史的建造物が解体されていく中で、「小樽れっけん」の取り組みが小樽の歴史的建造物の魅力の再発見、そして保存・活用につながるきっかけの一つになればと願っています。